Doorway Effect (ドアウェイ効果)
「リビングからキッチンに来たけれど、何を取りに来たんだっけ?」というアレ。
なぜ起こるのか?
脳が環境の切り替わりを「情報の区切り」として処理するために起こると考えられている。
-
境界線(イベント境界)の認識
脳は「ドア」や「部屋の入り口」を通る際、そこを物語の章立てのような「イベントの境界線」とみなす。
-
記憶のアップデート(リセット)
新しい部屋に入ると、脳は「新しい環境に適応するための情報」を優先して取り込もうとする。その際、前の部屋で持っていた「目的(例:ハサミを取りに行く)」という情報を、「もう必要のない古いエピソード」として脳の作業スペースから追い出してしまう。
-
文脈の喪失
記憶は、その時の風景や雰囲気(文脈)とセットで保存されている。環境がガラッと変わることで、記憶を引き出すための「ヒント」が失われ、思い出せなくなる。
情報が消えたのではなく、情報が「前のエピソード」に紐付けられたために、新しい環境からはアクセスしにくくなる。
対策はある?
この現象は「脳が正常に働いている証拠」であり、認知症ではない。
どうしても忘れたくないときは、「ハサミ、ハサミ……」と口に出しながら移動するか、移動前にその目的を強くイメージすると効果的。
元の場所に戻ると思い出すこともある。
→ Context-Dependent Memory (文脈依存効果)
関連事項
-
Episodic Memory (エピソード記憶)
個人の過去の経験や出来事を、その時の状況(いつ、どこで、誰が、何を)や感情とともに記憶する能力。一般的な知識を記憶する「意味記憶」とは区別される。
場所が変わる (Doorway) 以外にも,予測エラー=驚きによってエピソード記憶に区切りがつけられる。
●『Prediction errors disrupt hippocampal representations and update episodic memories』(2021)
(予測エラーは海馬の表現を混乱させ、エピソード記憶を更新する)
予測誤差に直面すると海馬の記憶表現が中断され、その後の記憶更新に関連することが、fMRIを用いた研究で示唆されている。
-
CLS: Complementary Learning Systems (相補的学習システム)
脳における記憶と学習に関する認知神経科学の主要な理論モデルの一つ。
エピソード記憶など、新しい情報や具体的な出来事を急速に学習・記憶する海馬 (Hippocampus) と, 長期的な記憶の統合、一般的な知識、スキルなど保持する 新皮質 (Neocortex) の2つのシステムが相補的に機能する, とするモデル。海馬で一時的に保持された情報が、睡眠中などに海馬と新皮質の間で繰り返しやり取りされる(再活性化)ことで、最終的に新皮質へと移行し、長期的な安定した記憶として定着すると考えられている。
-
Context-Dependent Memory (文脈依存効果)
「記憶した場所と思い出す場所が同じ方が正解率が高くなる」という現象。
●『Context-dependent memory in two natural environments: On land and underwater』(1975)
スキューバダイバーを対象に、単語の記憶テストを行い(2,3)より(1,4)の方法が成績が良いことを実証した。
1. 陸上で学習, 陸上でテスト
2. 陸上で学習, 水中でテスト
3. 水中で学習, 陸上でテスト
4. 水中で学習, 水中でテスト
-
-