~『世界は2乗でできている』(小島寛之)~
平方数の逆数は,
\[
\begin{align}
\frac{1}{1^2}&=\frac{1}{1}=1 \\
\\
\frac{1}{2^2}&=\frac{1}{4}=0.25 \\
\\
\frac{1}{3^2}&=\frac{1}{9}=0.11111\cdots \\
\\
\frac{1}{4^2}&=\frac{1}{16}=0.0625 \\
& \quad \vdots
\end{align}
\]
という具合になっている。これをずっと無限の先まで足していったら究極的にはいくつになるか, というのがバーゼル問題と呼ばれ, 解決までに相当な年数を要した。
スイスの数学者ダニエル・ベルヌーイは, 1728年に「この値は, きわめて\(\displaystyle \frac{8}{5}\) に近い」とゴールドバッハへの手紙に書いた。ダニエル・ベルヌーイは, 三代にわたって八人も数学者を輩出した数学一家の中の一人である。また, ゴールドバッハは, 「4以上の偶数は2個の素数の和である」という現在も未解決のゴールドバッハ予想を提出したプロイセンの数学者だ。そのゴールドバッハは, 翌年の1729年にこの値を 1.6437 と 1.6453 の間の数だと突き止めている。
スイスの数学者オイラーは, 1731年にさらに精密な値 1.644934 を得た。しかし, まだこの時点では, オイラーもこの数の正体に気づかなかった。
オイラーは, その後, 執念でこの値を20ケタまで計算した。それは次の値だった。
\[
1.64493406684822643647
\]
ここまで来て, オイラーは遂に正体を突き止めたのだ。読者には想像がつくだろうか。電卓のない時代にオイラーがこれを突き止めるには, とてつもない試行錯誤があったであろうことが想像できる。私たちは電卓という利器があるので使うことにしよう。まず, この数に6を掛けると, 9.869604・・・ が得られる。次にこれの平方根を求めよう。3.141592・・・ となる。さて, ここまで来ればおわかりになっただろう。そう, これは円周率 \(π\) である。6を掛けて平方根をとると \(π\) になる。だから, 逆算すれば, \(π\) を2乗して6で割った数が求める数ということになるわけだ。すなわち,
\[
\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots=\frac{\pi^2}{6} \tag{①}
\]
という結果を得たのである。それは1735年のことであった。平方数の逆数の無限和には, なんと, 円周率の2乗が現れるのだ。オイラーも, これにはひっくり返るほど驚いたに違いない。しかし, この事実の証明にオイラーが成功するまで, さらに10年の歳月が必要であった。